「ミムス-宮廷道化師」

「ミムス-宮廷道化師」

リリ・タール 作/木本 栄 訳/東 逸子 装画

発行日 
2009年12月24日

モンフィール国の王子であるフロリーンは、ある日敵国のヴィンランドに捕虜にされてしまう。
そして命を保証するかわりに、宮廷道化師に弟子入りさせられる。

今まで王子として大切に扱われてきた生活は一変し、みすぼらしい牢屋で暮らすという、軟禁生活を強いられる。
本の表紙は道化師の衣装をまとった王子が描かれているが、うら表紙にはもう一人の道化師がいる。
これがフロリーンの師匠、ミムスである。

ミムスとはヴィンランドの道化師に与えられる名前であり、彼の本名ではない。


捕らえられたフローリンは、はじめ「どうやって逃げ出すか」しか考えていなかったが、ミムスが芸を披露する様をみるうちに心に変化が訪れる。

王様が出す無茶な要望も臨機応変にうけとめ、どんな人間への悪口も即座に思いつく。
替え歌などで人のちょっかいをだし、絶妙なラインでうまく引く。
そんなプロの技術にフローリンも「これはすごい」と感嘆した。

 

道化師の生活を送るうちに、王子は善悪の判定が分からなくなってくる。
ヴィンランドの王がモンフィールに敵対している理由が、単なる資源に対する欲からきたものではないことがわかったからだ。

このあたりは話の本筋になってしまうので真相を書くのは伏せるが、この世に絶対はないことを彼は理解したに違いない。
それでも城で出来た友人のベンツォにミムスが自分の味方をしてくれないことを愚痴る。

「あのね、彼は王様の道化なわけでしょ?」ベンツォはほとんどあきれ顔だった。
「きみたちの味方して、なにになるっていうの? 鞭で打たれて、バカをみるだけじゃないか。だれが好き好んで、そんな目にあいたいわけ?」


七、八年前にCHANGEというドラマがあった。木村拓哉が日本の首相を演じ、あらゆる困難に立ち向かっていくドラマだ。
その中で記憶に残るエピソードがひとつある。アメリカから通商代表がやってきて、日本に対して不利な貿易に関する条約を結ぶように働きかけてくる。
木村拓哉はそれに的確に答え、なんとか対応する。

通商代表が帰ったあとに、秘書官に「話し合えばあうほど、相手と自分は違うんだということが分かる」と語る。

 

人はその人によって立場が違う。
生き方や性格も異なる。
こちらが正しいと思っていることも、相手にとっては間違っていることだったりする。

フローリンは一国の王子から、敵国の道化師という全く異なる境遇を味わうことになる。
しかし、それによって世間の多様性を認め、より幅のある人間に成長する。つまりはこれは単なる道化師の物語ではなく、一人の男の成長のストーリーである。

 

学校や会社で理解できない、受け入れられない人がいると感じている人は読んでみてほしい。
きっとミムスが「上から見ようと、下から見ようと、中身は結局いっしょってわけだ」とからかってくるはずだ。

ミムス―宮廷道化師 (Y.A.Books)

ミムス―宮廷道化師 (Y.A.Books)